幼い頃、あなたはおいしかった飲み物というと何を思い出しますか?
人によってこれは色々だと思います。
男女、年代によってもアンケートをとればずいぶん違った結果になるでしょう。
私はといえば、暑いさなか、遊びから家に帰ってコップに一杯一気に飲みほした、サイダーの味は忘れられません。
その他日常茶飯事という言葉があるように、食後のお茶もおいしいものでした。
中でも玄米茶がいちばんのお気に入りで、母親につきそって買い物に行くときには、ねだったものでした。
ところで、5歳ぐらいのある日のことです。
当時住んでいたアパートに父親の友人が二人、遊びに来ました。
そのとき母親が台所で今まで見たことないことをしていたのを覚えています。
何をしていたかというと、白いしゃれた容器に茶色い粉をスプーンで入れているのでした。
それから砂糖を入れて、湯をそそいで、今までかいだことのない不思議な香りがしたのを今でもよく覚えています。
母親は、三人分作ると、お盆に乗せて父親と友人の三人へ持って行きました。
客が帰って、私は「ねえ、さっきの飲みもの何ていうの?」母親に聞きました。
母親は「コーヒー、子供が飲むものじゃないのよ」と答えてくれました。
私がコーヒーに触れた初めてのことです。
私のコーヒーデビューはいつのことかは覚えていませんが、たいへん苦かったことは覚えています。
高校に入ってから初めて喫茶店なるものに入って、インスタントではない、本物のコーヒーを飲むようになりました。
そしてそのようにコーヒーや飲食物を出す店、喫茶店のことをフランス語でカフェと呼ぶのだというのも知るようになりました。
けれど日本で喫茶店というと、屋内でコーヒーや軽食を飲食できる店というイメージがあります。
私の印象に、いいなあと思われるカフェはフランスのカフェです。
街路横の歩道の上に、テーブル、椅子などが置かれています。
むろん店内にもテーブルの席もあればカウンターもあります。
けれどその歩道の上の椅子に座って楽しそうに談笑しているフランス人の様子を見ると、いい文化を持っているなと思うのです。
実を言うと、私はエスプレッソの方が好きです。
だから今もし出来るならフランスに行き、街路に面したカフェで美人のフランス人と会話しながらエスプレッソを飲めたらどんなに楽しいだろう、おいしいだろうかと思うのです。
テレビでカフェでの楽しそうなフランス人たちを見ると、ひょっとしたら、フランスの偉大な芸術もこうした社交文化のなかから生まれたのではと思うようになりました。
そして調べてみました。
するとセーヌ川左岸にあるモンパルナスのカフェがそうであることが分かりました。
カフェの老舗である例えばラ・クールポールなどは今でも営業して、当時をしのばせるそうです。
そもそもは芸術家たちがアトリエの寒暖をしのぐと同時に溜まり場として使い、アイデアをねった場所だったということです。
面白い逸話としては、空腹の芸術家が眠りこけ、一晩すごしてもウエイターは起こさなかったそうです。
「芸術家たちのモンパルナス」といわれるほどになったのは、カフェの文化が彼らを助けたといってもいいものだと納得した次第です。